特集|図書館のすすめ
2018.06.29

読書が育む想像豊かな未来-読書文化によせて

水戸には2018年6月現在、公立・私設・大学を含めて10館の図書館が存在する。とても充実した読書環境だと言える。
この充実した環境の発端は、1984〜93年に市長を務めた故佐川一信氏の時代にまで遡る。氏が市長になった当初は、中央図書館と県立図書館の2館のみであり、大学図書館も開かれたものとは言えず、読書環境としては十分なものではなかったと推察する。『読書文化の復権をー佐川文庫開設に寄せて』(佐川文庫発行)によると、昭和59年当時は人口22.5万人に対し蔵書総数20.9万册、登録率16.8%と現在と比べると少し寂しい数字が見えてくる。未来の読書文化への危機感が水戸の図書館行政を方向付け、現在に繋がっている。

『水戸発地方からの改革』(佐川一信著・日本評論社)から一部参照する“…現代の若者文化が、マクルーハンの指摘によっても明らかなように、音と光と映像による「点の文化」だとすれば、われわれの世代は文字や活字による「線の文化」である。それぞれに長短はあるが、音や映像が、相手からの一方的に与えられる受動的要素を有するとすれば、文字や活字は、能動的精神活動によってのみ親しまれるものであり、興味という「線」によってしか読書は成立しないのである。その分だけ読書傾向は、ある意味で片寄り、深くなり、専門化されるのであって、熟慮と思考が特定の世界を通して広がるのである。子どもは本来、時代の子である。時代をこえた、普遍的な子どもの感性や思考はあり得ない。しかし自ら考え、主張し、行動する自立性は、人間の普遍性として確立される必要性があり、図書館行政はその最も効果的なものである、と私は確信している。私が最も心血を注いだものの一つとして、図書館行政を看過してほしくないのである。…(中略)…そして、将来は地区中央館の南北への拡大と、公民館や学校図書の充実によって、図書館ネットワークを強化し、読書文化の復権を図って、名実ともに水戸市が文教都市となる事を夢見ていた。”

地区中央館である東部・西部整備後、2000年代に入り見和・常澄・内原館もオープン。中央図書館を中心としたネットワークが完成し、市立図書館全館で使用できる共通の貸出カード、オンライン予約で希望図書を近隣館で受け取れるサービスなども拡充された。大学図書館も開かれたものとなり、氏の思惑通りハード面での環境は整備されたと言える。
しかし、時代が変化し今やネット全盛の世の中。氏が憂慮していた“音と光と映像による「点の文化」”が幅を利かせる時代に本格的に突入したと言える。これまでとは違った視点での読書体験の整備、特にソフト面でのアップデートが必要な段階にきていると感じる。

筆者は、読書は過去の人々と時間を越えて交信できる最適な手段だと確信している。それ故に過去の文献を参照し、時に情緒に訴え、情感豊かに話したり書いたりすることへ豊かさや憧れを感じる。現在主流の直接的で単純な表現や視覚に訴える手法とは違い、発信側も受信側もある程度の知性とリテラシーをもってこその非効率な手段なのだが、そこからは、更なるイメージや力が沸き上がってくる。それはまさに故佐川一信氏が言っていた読書の「線の文化」に繋がるのではないか。更に私たちは線を紡いで面に、そして立体に発展させていかねばならない。

まずは、図書館を知って気軽に利用してみる。本に触れてみる。様々なサービスを利用してみる。友だちにその情報を教えてみる。自分ならではの使い方を生み出してみる。

地域の共有資産として活用することを前提にしてみたら、もっと豊かな読書環境が育まれていくのではないかと期待する。この小さな記事がその一歩となれば幸いである。

(原文2015.12 MapiNavi33号)

 

 

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