道草展:未知とともに歩む
2020.08.29 -2020.11.08 | 水戸芸術館 現代美術ギャラリー

水戸芸術館 現代美術ギャラリーでは現在、「道草展:未知とともに歩む」が開催中。植物への関心やフィールドワークから生まれた現代美術作品を通して、人間がその環境とともに歩んできた道のりを考察する展覧会として国内外で活躍する6名の作家が参加。会期は2020年11月8日(日)まで。

 

異常気象や環境汚染など、今日、人間の営みが環境に与える影響はその在り方を問われる重大な局面を迎え、政治や経済に対して積極的な対策を求める声が世界各地で上がっています。本展は、このような社会的意識の高まりを背景に、植物への関心やフィールドワークから生まれた現代美術作品を通して、人間がその環境とともに歩んできた道のりを考察する展覧会です。植物にまつわる歴史や人ならざるものの存在に目を向けてきた6組のアーティストによる、ドローイングや写真、映像、インスタレーションなどのさまざまな表現から、人間と環境のつながりを考えます。
本展はまた、人間と環境のつながりの「これから」を参加者とともに想い描く関連プログラムを実施します。気候変動適応に関する資料室や講座の開設など、体験や対話を通した双方向的な学びから、一人ひとりが地球規模の問題や共存社会を思考する機会を創出します。

新型コロナウイルス感染症予防のお願いについてはこちらをご覧ください。
https://www.arttowermito.or.jp/topics/article_40321.html

※展示室内の混雑を緩和するため、状況により入場制限を行うことがございます。
※会期は変更となる場合がございます。

■展示内容の紹介

ロイス・ワインバーガー
(1947 年オーストリア・チロル州シュタムス生まれ。オーストリアのウィーンを拠点に 活動し、2020 年に同地にて永眠)
1970年から作品制作を開始し、以降自然を自らの主なメディアとしてオーストリア国内外で作品を発表してきた。「純正や真実の美学、そして秩序の力に抗する」実践として自らの創作を位置づけ、いわゆる人里植物と呼ばれる、人為による撹乱が激しい環境に生きる植物の存在を一貫してその創作の源とした。
本展では、水戸芸術館広場のために構想された3メートル四方の屋外インスタレーション《ワイルド・エンクロージャー》(2020)を展示。また、展示室内では、フィールドでの実践を通して制作された作品から、植物にむけられたそのまなざしを辿る。

ロイス・ワインバーガー《燃焼と歩行》ドクメンタ10の記録写真、1997
Courtesy of Studio Lois Weinberger and Krinzinger Gallery, Vienna ※参考図版
Lois Weinberger, Burning and walking, documentation of documenta X, 1997
Courtesy of Studio Lois Weinberger and Krinzinger Gallery, Vienna  *referential image

 

 

ロイス・ワインバーガー《ワイルド・エンクロージャー》のためのドローイング、2020
Courtesy of Studio Lois Weinberger and Krinzinger Gallery, Vienna
Lois Weinberger, drawing for Wild Enclosure, 2020, Courtesy of Studio Lois
Weinberger and Krinzinger Gallery, Vienna

 

 

露口啓二
(1950年徳島県生まれ。現在北海道を拠点に活動)
1990年代末より北海道の風景と歴史に着目した写真作品の制作を始める。露口は、出来事の結果を写しとるのではなく、文献や資料をたよりにひとつの場所を繰り返し訪れ、環境のなかに身を置くことで、そこに起こり続ける変化を捉えようとしてきた。本展では、露口の代表的な連作「自然史」と「地名」を通して、場所に起こり続ける「ずれ」や「ねじれ」、そして「切断」に焦点をあてる。

露口啓二「自然史」より《東北太平洋岸・南相馬市・井田川浦》2015、発色現像方式印画
Keiji Tsuyuguchi, Minamisoma, Itagawaura, Tohoku Pacific Coast, from the series
“Natural History”, 2015, chromogenic print

 

 

ロー・ヨクムイ
(1982年香港生まれ。同地を拠点に活動)
自身の故郷であり、さまざまな人種や文化が交差する場所・香港の風景や地理に目を向け、その歴史と急速な社会変化を映し出す詩情豊かな作品を制作する。
《殖物》(2019)は、人間と植物の複雑で情緒豊かなつながりを香港の地政学的アイデンティティと重ねた映像作品。憂いや悦び、恋慕といった感情の動きが独特な身振りと音、歌によって表現される山場では、戯曲や詩作からの引用と作者の言葉がモンタージュされ、視聴覚と言語の間の揺らぎを生み出している。

ロー・ヨクムイ(羅玉梅)《殖物》2019、3チャンネルビデオ
Law Yuk-mui, Pastiche, 2019, 3 channel video

 

 

ミックスライス
(2002年結成。韓国のソウルを拠点に活動)
移住によって生まれる変化やその痕跡、想起される記憶に目を向け、時に特定の状況におかれた個人やコミュニティと共同しながら、写真や映像、テキスト、アニメーションなどさまざまなメディアを用いた作品を制作している。
《つたのクロニクル》(2016)は、土地開発で移植された樹木の軌跡をたどって制作された映像と写真、印刷物、グラフィティなどによる作品群。開発によって翻弄される植木の姿には植物の根や幹枝だけでなく、人間を取り巻く自然・社会環境までをも分断する持続性を省みない開発の課題が示唆される。

ミックスライス《つたのクロニクル》2016、2チャンネルビデオ
mixrice, The Vine Chronicle, 2016, 2 channel video

 

 

ウリエル・オルロー
(1973年スイスのチューリッヒ生まれ。ロンドンとリスボンを拠点に活動)
オルローは、作品制作の過程で綿密な資料調査や現地取材を行い、歴史や表象が取りこぼしてきたものに目を向け、記憶を喚起する空間的な作品を制作してきた。2016年から18年にかけて制作された作品群「植物の劇場」から南アフリカ共和国と植民地宗主国との間にあった占領の歴史や今日に至る貿易交流の関係を、植物の視点を通して読み解く作品群の核となる5作品を紹介する。
また、近作《アルテミシアから学ぶ》(2019)では、抗マラリア薬として栽培されているアルテミシアの歴史について調査する一方、現地の女性たちとの継続的な協力関係の構築というアーティストが歴史や現地に介入することの新たな可能性を見せる。

single-channel HD video with sound, 17′

ウリエル・オルロー《ムティ(薬)》2016-18、シングルチャンネルビデオ
Uriel Orlow, Muthi, 2016-18, single channel video

 

 

上村洋一
(1982年千葉県生まれ。同地を拠点に活動)
視覚や聴覚から風景を知覚する方法を探り、フィールドレコーディングによって世界各地の環境にアプローチし、そこで得た素材やコンセプトをもとにインスタレーション、絵画、サウンドパフォーマンス、音響作品などを制作している。フィールドレコーディングを「瞑想的な狩猟」として捉え、その行為を通して、人間と自然との曖昧な関係性を考察している。
本展では、流氷自体が生み出すさまざまな環境音や、海中生物の鳴き声、そして、いまは聴くことができない「流氷鳴り」*を人間の呼吸や口笛で再現した音などの混成によってつくられる瞑想的なサウンドスケープが展示室全体を満たすインスタレーション作品を新たに制作する。
*流氷鳴り:流氷の隙間から空気が押し出され、人間の口笛のような音を奏でる自然現象。現在は流氷の減少によって聴かれる機会がなくなっている。

上村洋一《phantom power》2019、流氷を溶かして生成された水、グラス、金属板、スピーカー、音(撮影:加藤健) ※参考図版
Yoichi Kamimura, phantom power, 2019, water generated by melting drift ice, glass, metal plate, speaker, sound (photo: Ken Kato) *reference image

 

上村洋一《息吹のなかで》のためのドローイング、2020
Yoichi Kamimura, drawing for Breath You, 2020

 

 

■同時開催/関連プログラム

クリテリオム97 肥後亮祐
2020年8月29日(土)~11月8日(日)

日比野克彦「HIBINO CUP」番外編
2020年10月3日(土)

視覚に障害がある人との鑑賞ツアー「session!」
特別編「展覧会を見たあとで」
2020年10月4日(日)

秋の道草らぼ 「道草日光写真」
2020年10月24日(土)、25日(日)

秋の道草らぼ「道草展と香りのアーカイブ」
10/31(土)、11/1(日) 全4回開催

 


イベント情報

道草展:未知とともに歩む
会場:水戸芸術館 現代美術ギャラリー
会期:2020年8月29日(土)~11月8日(日)
開催時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
出展作家:上村洋一、ロー・ヨクムイ、ミックスライス、ウリエル・オルロー、露口啓二、ロイス・ワインバーガー
チケット料金:当日一般900円、高校生以下・70歳以上、障害者手帳などをお持ちの方と付き添いの方1名は無料
休館日:月曜日 ※ただし9月21日(月・祝)は開館
お問合せ:水戸芸術館(代表) TEL:029-227-8111
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5110.html