COLUMN|「映画」。ウソもマコトも全部。vol.3
2018.06.21

自分のモノサシ

映画はあらゆるエンターテイメント、あらゆる芸術の集合体だ。衣装ひとつ、小道具ひとつとってもそれは素晴らしく、音楽と演技、そして風景、物語、衣装など、あらゆる芸術を内包し、ひとつの作品として私たちの目の前に現れる。そして、およそ2時間ばかり、観るものを日常から解き放ち、希望の光を照らしてくれる。それはとても豊かな時間であり、人生に彩りを添える体験をもたらす。

2017年に日本で劇場公開された映画は1187本(邦画594洋画593)。2013年ごろから1000本代に突入し、1日3本以上観ないと全ての作品を観ることができない時代だ。水戸エリアだけをみるとおそらくその半数ぐらいの公開本数となるだろう。それでも500本近くは上映されていることになる。

さて、皆さんはこのような万万千千の映画の中から、どのように映画を選んでいるだろうか。かつては街のそれそれの劇場がチョイスする映画の色が違っていて、劇場の色が映画を選択する基準になっていた時代もある。近年、シネコンの台頭により、劇場によって作品が変わるということがほとんどなくなった。水戸エリアをみると3つのシネコンがあり、スクリーン数は合計26スクリーンにもなるが、どこで見ても上映作品はそれほど代わり映えがしない。もちろん3つのシネコンがあるという事で、上映時間を選択しやすくなっているというメリットもあり、その点では恵まれているとは思うが、全国的に話題の作品であっても、水戸エリアでの公開がないという事はよくある。3つのシネコンがあってもこの状況だ。見たい作品は東京まで見に行くような映画ファンもいるが、多くは近くの劇場で上映している作品から選ぶことになる。映画の選び方でいうと、ネットの口コミや評価の星の数が多い作品を選ぶ傾向が強い。特に日本では多数派の意見がなんとなく正解とみなされる傾向があり、星の数が多い方が見る価値の高い映画だということになってしまう。お金を払って時間を作ってわざわざ見に行くのだから、映画選びに失敗したくないという声もある。確かにそれもわかる。そんなことで結局は、莫大な宣伝費を持っている大手の配給会社の作品がシネコンで上映され、人の目に触れる機会が多くなり、口コミの件数も増えるから、いわゆる大作映画しか見ないということになる。1000本以上の多様な作品が誕生しているのに、市場は独占され画一化されてきているのである。

この状況が続くと自分のモノサシを見失い、他人のモノサシでしか判断できなくなるのではないかという恐怖感に襲われる。
だからちょっとだけ抗いたい。
これが、ぼくが毎月1回水戸では紹介されていない作品を中心に自主上映会を企画している理由の一つ。
小規模だけど水戸の街に多様な作品を紹介し続けたい。

そう考えると水戸エリアに昨年誕生した那珂市瓜連にできたミニシアター「あまや座」の存在意義はかつてないほど大きい。
ぜひ、「あまや座」に足を運んで欲しい。

なによりも自分のモノサシを奪われてしまわないように。

あまや座
http://amaya-za.com

 

寺門 義典
1973年茨城県出身。茨城大学卒。大学時代に地元映画館でアルバイトをする。現在小学校教諭。ボランティアで地元の映画制作に多数参加。震災後、映画団体のネットワークづくりを目的とした「310+1シネマプロジェクト」を設立。「水戸短編映像祭」「シネポートシアターMITO」等の非劇場での上映活動のスタッフをしながら水戸の映画文化の発信に尽力している。水戸のコミュニティ放送「FMぱるるん」の「シネマ倶楽部」(第1・3月曜14:00)パーソナリティ。
https://310cinema.wordpress.com