Interview | kidono
2020.06.26

kidono

8 INTERVIEW QUESTIONS FOR MUSICIANS@MITO

 

Q1.自己紹介をお願いします
茨城県を中心に活動する、タダ(Gt,Mc)、カワマタカズヤ(Gt.)、グンツ(Dr.)の3人によるミステリアス・ダンサブル・ノイズ・バンド。水戸の最終兵器kidono。
タダの歌う摩訶不思議な世界が、予測のつかないバンドサウンドと融合し聴き手に襲いかかる。

Q2.活動を始めた経緯を教えてください
夏が終わったから

Q3.影響を受けたアーティストやバンドのルーツなど教えてください
Deerhoof、Guiatr Wolf、Battles、ゆらゆら帝国、村上龍

photo:yunourayuno

Q4.音楽活動の中で一番大事にしていることはなんですか?
P O W E R
宇宙を閉じ込めるカタルシスの解放。ビックバンの再来、またはビッグクランチ。

Q5.水戸で活動する意義はどんなところですか?
近いから

Q6.ライブやリリースなど今後のトピックがあれば教えてください
5/30よりMV “Catlle Mutilation”が公開中

Q7.今後のビジョンや展開などを聞かせてください
New release “thirty yeti in your fridge”のrelease企画を敢行予定

photo:2ka8

Q8.読者へのメッセージをどうぞ!
「山狐の登場」

この日は春先にしては、風が強く肌寒い日だった。
店に入ってからすでに1時間近く経ちアイスコーヒーは滝のような汗をかいている。
しばらく駐車場の砂利が風に煽られて戦っているのをボンヤリと眺めていると、店に入ってくる男の姿が見えた。
男は黒いコートの襟を立てて、薄い色の入ったサングラスをかけていた。風と日射を避けるためにそれらを正しく着こなすことのできる人種は限られている。一目で彼だとわかった。
店内に他に40代の人間はいないが、念のため表紙が見えるようにテーブルの端に目印の雑誌を立てかけておく。
彼はサングラスを外し、薄目で睨みつけるようにテーブルを一つ一つ確認した後、早足で私のいる席へ近づいてきた。
彼の髪は風で乱れ、無精髭も生えていたが不思議と人を不快にさせない清潔感があり、不自由や金銭的な束縛もない暮らしぶりが想像できた。
お互いに挨拶を交わした後、彼は時間をかけてゆっくりとコートを脱ぎ、私の向かいの席に腰掛けながら、話しはじめた。
「遅くなってすみません。大した理由にはならないかもしれませんが、この話を人に話すには準備が必要でして。」
「こちらこそ急遽取材を申し込んでしまいすみません。理由というのは、精神的なものですか?」
「もちろん精神的な面もあります。ただどちらかというと私自身も身に起きたことの全てを整理できていないのです。なので、正しく理解していただくため話を組み立てる必要がありました。」
彼は一つ一つの言葉を丁寧にしっかりと伝わるような話し方をしていたので、薄っすらと緊張した心持ちが線で繋がれたように私にも感じられた。
「ありがとうございます。ただ、文字に起こした原稿を確認してもらった後で、いくらでも修正が出来るので、今日は友人に話すようにフランクにはなしてください。」
私はできるだけ人の良さそうな笑顔を意識して話した。
新たにアイスコーヒーを二つ頼み、彼が煙草を吸い終わるのをまってから私は取材を始めた。
「早速ですが事の経緯を簡単に教えてもらってもいいですか?」
彼は深く椅子に座りなおした後、一息ついてから話しはじめた。
「私は妻またはその生物と20年ほど共に暮らしましたが、いつ、その現象が起きたかは、定かではないのです。終わりの1年間だけだったかもしれないし、はじめからそうだったかもしれません。」
「普段の暮らしは一般的な家庭と変わらないと思います。毎晩必ず食事は一緒にとっていたし、性行為や一年に一度の旅行の時も変わった事はなかったです。遊園地のジェットコースターや動物園の熊に驚いて、尻尾がボロッとでることもありませんでした。私はその生物が告白して初めて事実を知ったのです。」

彼は狐のことを一貫してその生物と呼称した。
「その告白について詳しく教えていただけますか?」
「いつもと変わらない朝でした。強いて言うなら夜中に強い雨が降り朝靄がかかっていたかもしれない。枕元にその生物がちょこんと座っていたんです。ちょうど犬のおすわりのような姿勢です。少し物憂げな顔をしているように見えました。動物の表情なので正しくは理解できなかったのですが。」

「私は、何故こんな住宅地に迷い込んだのかと不思議におもいました。近くに山はなく狐が出るという話も聞いたことがなかったので。」
「寝起きの働かない頭でそんなことを考えていると、その生物から妻の声がしたのです。よく聞くと、足音のような小さな声で(変われなくなった)といってました。はじめは手の込んだイタズラだと考えようとしたのですが、妻はこんなイタズラをするような性格ではないし、声は明らかにこの生物が発したものでした。」
「その生物はさらに消え入りそうな声で告白を始めました。」
「変われなくなったのです。私はあなたの妻にずっと化けていました。それはもう自分でも感心するくらい完璧に。実際あなたも気づかなかったことでしょう。でももう変われなくなったのです。私は彼女の内面に入り込み過ぎたのです。変わるということを意識しなくなってしまった。意識をしないと変わることはできないのです。申し訳ありません。」
「私はこの状況を受け入れるしかありませんてました。実際に妻は居ないし、この生物はたしかに人語を話している。いつからこの生物は妻に化けていたのか。なぜ化けていたのか。何に対して申し訳ないのか。本物の妻はどこ消えたのか。疑問が浮かんだのですが、この生物に問うことはしませんでした。私も幾分か動揺していたし。質問しても答えは帰ってこないことが分かったのです。」
「私が何もせず黙っていると、その生物は小さな手で器用に窓を開けて朝靄の中に消えてしまいました。ことが起きてから1週間くらいは悪い夢だと思えました。ただ1週間経って、違和感に気づきました。妻の名前が思い出せないんです。名前どころか顔も香りも性格も思い出もすっかり忘れてしまっているのです。ただ私の名前を呼ぶ声だけは記憶に残っています。それもその生物のものか否か定かではないのですが。」
その後私たちは、狐がどのような目的を持っいたのか、妻はどこに消えたのか、そもそも実在していたのかということについて話し合ったが、その議論は全て無駄なことだった。
1時間ほど経ち私が話を切り上げようとすると彼は鞄から広辞苑程の分厚いファイルを取り出した。

「これを見てください。あんなことがあってから私は身に起こったことの全てを覚えておくために日記をつけているんです。毎日2時間ほどの時間をかけて出来るだけ詳細に書いています。」
それは日記というより記録に近かった。起きた時間やその日起こったことを出来るだけ細かく書いてある。排泄や自慰についても細かく書かれていて、その日の日記の文末には必ず彼の名前が10回ほど記してあった。
「いつか自分の名前を忘れてしまうんじゃないかと思って自分のここに記しているんです。」
「私は運命論を突き詰めると人間は駒になると考えるんです。作用、干渉することも運命に沿っているんです。」
「報いなのかもしれません。私は多くの人を誑かしてきたと思います。人を駒だと思うと罪の意識が薄くなるのです。」
「妻は実在したのでしょうか?それとも私はあいつに騙されていたのでしょうか?」
私は何も言わずに二人分の会計をして店を出た。風はますます強くなり砂を舞い上げ私の瞳を突き刺した。瞳を擦って再び開くと、店の中の男は消えていた。

 

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